エーミールと探偵たち ~ ケストナー初の子ども向け作品

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ケストナーが初めて書いた子どもの本。
彼の子どもに寄せる期待と信頼が、この最初から強く出ています。

エーミールはドイツの地方都市ノイシュタットに、お母さんと二人で暮らす少年。 実業学校の生徒で、美容師として働くお母さんのために家事を受け持ち、時にはお母さんの仕事も手伝う模範少年です。

その彼が休暇で、ベルリンに住むお祖母さんと叔母さん一家を訪ねることになります。
ベルリンまでは列車の旅。
エーミールの気がかりは、お母さんからお祖母さんに渡すように預かった140マルク。 
持ち慣れない大金であるだけでなく、普段からお母さんの仕事ぶりを見ているエミールは、それだけのお金を稼ぐために、お母さんがどんなに頑張っているかよく分かっているので、ちょっと落ち着きません。

ヨーロッパの列車はコンパートメント(車室)形式が多い(現在は少なくなってると思いますが)。 ハリー・ポッターの映画でもおなじみですが、見たこと無い人も、本の最初の方と途中の挿絵でイメージがつかめると思います。 最初の説明は子ども達を物語の世界に案内するための仕掛けだと思いますが、外国の風物に馴染みのない日本人にも、良い導入になっています。 もっとも、余分で煩わしいと感じる方もいるかも知れませんが。

その閉鎖的な車室で居眠りしてしまったエーミールは、同室の山高帽の男に大事なお金を盗られてしまいます。
間一髪、ベルリンの駅で降りる男を見つけたエーミールは、追跡を開始します。
でも、知らない町でたった一人?
そこに現れたのが、警笛を持ったグスタフ少年と、仲間のベルリンっ子たち。
エーミールの話を聞いた彼らは、協力してお金を取り返そうと、グスタフと教授(プロフェッサー)君を中心に計画を練ります。

彼らの計画と手際の鮮やかさ、子ども達の数がふくれあがって男を追いつめるシーン、何度読んでもワクワクします。
でも、本当に大事なことは何なのか? 最後のお祖母さんのコメントを心して読んで下さい。
そして、お手柄が新聞に載って有名になったエーミールが、商売の宣伝に使われるのを拒否するところも。

ところで、子どもだけで危ないことをしないで警察に届ければいいのに、という疑問は当然出ると思いますが、エミールにはそれが出来ないわけがあったのです。 読んでみれば他愛ないことかも知れませんが、そんなところにもエーミールの真面目さが現れていて、ほほ笑ましく思います。

ただ面白おかしいだけじゃない、人間として大事なことを見失わないで欲しいという、ケストナーのメッセージ。 現代日本の私たちはしっかり受け止める必要があります。

この本は、私の好きな高橋健二訳じゃないのですが、新訳でもなく、特に違和感ありませんので、この訳で紹介しておきます。


「エーミールと探偵たち」 エーリヒ・ケストナー作  小松太郎訳(岩波少年文庫