「交通誘導員ヨレヨレ日記」他お仕事日記シリーズ

時々、新聞広告で見かける情けない漫画の表紙絵のお仕事日記シリーズ。 第1弾の「交通誘導員ー」から何冊か読んだ分の感想をまとめておきます。 今まで読んでいるのは他に派遣添乗員、マンション管理員、メーター検針員です。

このシリーズが当たったのは、日頃ごく当たり前に見かけるのに実際はどんな内容なのか知らない仕事の実態を、当事者がユーモアとペーソスを交えて説明してくれているところでしょう。 そういう意味では交通誘導員とメーター検針員が特に面白かった。
実際に仕事をしている年代は様々でしょうが、著者は年配の方が多い。 そこにたどり着くまでに経験を重ねていて、それがものの見方や表現力を深めているし、前日談にも面白みがあります。 文筆業を志したり経験した方が多いので文章は読みやすい。 文のトーンが同じように感じるのは編集の手が入っているのでしょうか。

第1弾の「交通誘導員ヨレヨレ日記」では非正規の雇用や仕事の実態が迫力を持って伝わってきました。 なんとなく、交通誘導員も建設会社・工事会社の人のように思っていたけど、そうじゃなかったんだ。 誘導員には交通規制をする権限がないのにも驚きました。 権限がなくても何かあったら責任を問われるのでしょうね。 今の日本社会の理不尽さを感じます。 誘導員の方を日常的に見かけるのは、工事現場のほかはスーパーの駐車場です(本書には出てきませんが)。 出入りするときに「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と挨拶してくれる方が多いけど、何も言わない人もいる。 ここで働く方たちがスーパー従業員でないのは分かっていましたが、無視されるとやはり「このスーパー愛想悪いな」と思ってしまう。 実際は従業員でないので言う必要もないのに、神経を使う仕事の中サービスで言ってくださってるのだと気づき、挨拶してもらったら、ちゃんと会釈を返しています。

第2弾「派遣添乗員ヘトヘト日記」は、添乗員付きの旅行というかそもそも団体旅行をしたことがないので、他のものより思い入れが少なかったです。 初めの方にクレームをつける年配女性のエピソードがあるけど、母娘旅行で列車内の席を離されたことに対して、この女性の気持ちもわかる気がします。 車内での久々のおしゃべりも旅の楽しみのひとつでしょうから。 安い旅行だからとびとびに離れた席しか押さえられないという事情も分かりますが、著者がこの件で得た教訓が連れと離れた席をあてがうのは文句を言いそうにない人、というのは「え~?」と思ってしまった。 「連れは離れた席にしないように気を遣う」じゃなくって? それっておとなしい人に割を食わすってことじゃないですか? 同じ料金払っているのに。 だとすると先の件も年寄りの女だから「文句は言わないだろう(言わせない)」という読みで、女性が「こんなひどい扱い」と文句を言ったのは席を離されたことだけじゃなくて、著者のそういう態度では?と感じました。 だからその後の記述も、あまり著者の立場に寄り添って読めませんでした。

「マンション管理員オロオロ日記」は夫婦での住み込み管理員の体験談。 住み込みの管理員はいなかったけれど集合住宅にいたことはあり、生活は見当がつきます。 ご夫婦だし、この方には少し仕事を楽しむゆとりもあるように感じました。 とはいえ大変な仕事に変わりありません。 住み込みだからと言って24時間勤務ではない。 仕事の時間は決まっている。 でも時間外と分かっていても、何かあったら頼りたくなるのは人情でしょう。 だから住み込み管理員というのは無くなる傾向にあるようです。 だとすると、本の宣伝文句の「24時間苦情承ります」はまずいんじゃないの? 本は読まずに広告だけを目にした住人が、自分のマンションの住み込み管理員に「ほら、ここにもこう書いてあるじゃないの!」と迫りそうな気がする。

「メーター検針員テゲテゲ日記」は電気メーター検針員の話ですが、先のものと違って東京・大阪という都会でなく鹿児島が舞台なので、お国言葉や風物、訪問先の人々とのふれあいも楽しめます。 「テゲテゲ」というのは鹿児島弁で「適当に」という意味だそうです。 検針員の方には常日頃お世話になっているはずですが、本書のように「検針でーす。」と入ってこられることはない。 集合住宅や外からメーターが見えるところに住んでいるからでしょう。 メーターを読み取るのにこんなにも苦労があるとは思ってもみませんでした。 地形などの事情は仕方ないにしても、工事をするとき後でメーターを読み取ることを考えずに機器を取り付けるなんて。 さらに驚くのは検針員にメーターの場所が分からないケースがあること。 工場や畑の防霜ファンなんてものにもあるんですね。 取り付けた以上は所在は分かりそうなものですけど、ちゃんとした記録や地図さえない。 苦労して見つけても担当者が変わると次の人に引き継がれず、また一から探さないといけない。 時間内に検針できないと社員も加わって検針し、完了まで電力会社の入力も待たせることになる。 そんな無駄を減らすようにしつこく提言した著者はうるさい奴とクビになってしまいます。 ここにも日本社会の無駄、理不尽を感じます。 せめてもの慰めは、本書で著者が念願の作家デビューが叶ったことでしょう。

日本社会の縮図のような理不尽に耐えて大変な仕事を黙々とこなす人たち。 もっと誰もがゆとりをもって生きる社会はできないのか? 考えるとちょっと暗くなってしまいますが、機会があればシリーズ他の本も読んでみたいと思っています。

 

交通誘導員ヨレヨレ日記」   柏 耕一 著
「派遣添乗員ヘトヘト日記」   梅村 達 著
「マンション管理員オロオロ日記」  南野 苑生 著
「メーター検針員テゲテゲ日記」  川島 徹 著(三五館シンシャ)