風の歌を聴け

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なんだか黒い表紙が続いちゃったので、カラフルなやつを、という理由だけで選んだ村上春樹のデビュー作。

読んだのは数ヶ月前のこと。 
朝刊の地方欄に、本作の始めの方に出てくる公園(動物園ではない)の元・猿の檻が取り壊されるという記事が出ていました。 その日、図書館へ行ったら目の前にこの本があったので、迷わず借りました。 そいう縁は大切にしたいので。

で、読んでみると、おやおや?と思うほど後の作品を彷彿とさせるモチーフが詰まっています。
主人公は東京の大学生だが夏休み郷里の阪神間の街に帰っているらしい。 友人の「ねずみ」と酒、車、女という放蕩三昧の日々に、音楽や小説談義がちりばめられている。 この時代(1970年代初頭)大学生が車を乗り回すのは、まだかなり贅沢なことで、二人とも裕福な家の子弟であることが分かります。 放蕩無頼の生活をしている一方で、育ちの良さを感じさせる。 主人公は今だに父親の靴磨きという家のお手伝いをしているらしい。
こういうアンバランスさが妙にお行儀よくまとまっているところに、村上作品の主人公の不思議な魅力があります。 他の作品でも、シュールな設定の中で、主人公が料理やゴミ出しという日常生活を淡々と行っているところに、なんだか安心感や親近感を覚えてしまうのです。
他にも、いなくなってしまった(本作では自殺した)かつての恋人や、現在関わり合う女の子、後半に出てくる井戸のエピソードなど、後々の作品を思い起こさせるものが多い。
この作品で提示されたテーマを、その後どのように展開させていくかを追いかけるのが面白い、というファンもいるのかも知れません。

他の村上作品にも言えることだけど、内容がありそうでなさそうで、読者が自分なりの思い入れで解釈できるところも魅力なのかも知れません。

読んですぐ書かなかったのは、ちょうど最新作が話題になっていた頃なので、例によって天の邪鬼で書きたくない病になっていました。
もうほとぼりも冷めたので…、と思ったけど、今のタイミングだとN賞逸失記念? 候補になってたとは知りませんでした(笑)

冒頭の、主人公たちが酔っぱらい運転で突っ込んだという公園の元・猿の檻は、ちょっと興味あったし比較的近くだったけど、わざわざ見に行くほどのファン(信者?)でもないので、もう場所もどこだったか覚えていません。


風の歌を聴け」   村上春樹作(講談社