鞍馬天狗~「角兵衛獅子」

イメージ 1

イメージ 2

以前、NHKドラマ化をご紹介した「鞍馬天狗」。
現在は小学館文庫「鞍馬天狗」全5巻(2000年)と文藝春秋鞍馬天狗傑作選」全3巻(2007年)があることを知りました。 ドラマにはまった方もいまいちと思った方も、原作を覗いてみませんか?

これらのシリーズ、どちらも第1回がこの「角兵衛獅子」なんです。
実は私が読んだ全集では(中央公論社「決定版 鞍馬天狗」全12巻 1951年、と分かりました)、「角兵衛獅子」は最終巻となっていたので、この構成ちょっと抵抗を感じるのですが。

確かにこの「角兵衛獅子」の鞍馬天狗は以前ご紹介したとおり、強くて優しくて明朗快活で大胆不敵。 ストーリーも申し分ない面白さで、少年雑誌に連載された物だけに、子どもにも安心して読めるし、読みやすさも配慮されています。 シリーズ中一番人気で、単行本でも最も多く出版されているというのも肯けます。
ただ、本作の鞍馬天狗はあくまで完成した姿で、少し違う姿もあることは知っておいていただきたい、私はそういう天狗も好きなんです。

で、それさえお断りしておけば、もう後はお楽しみ下さい。
テレビで見た方はストーリーご存じと思います。 実は私、テレビの方はこの「角兵衛獅子」の前編1回きりしか見ていないんです。 西郷吉之助と桂小五郎、薩摩屋敷と祇園お茶屋が入れ替わっている以外は、だいたい原作に近いようでしたが。
でも、鞍馬天狗の本当の魅力、原作の良さ、格調は、やはり読んでこそと思います。

この作品では、近藤勇も情をわきまえ信義に篤い立派な武士として描かれているので、新撰組ファンの方にも抵抗無く読んでいただけるはずです。
何よりも、鞍馬天狗近藤勇の一騎打ちが描かれるのはシリーズ全作中、この作品だけなんですね。
これはちょっと意外でした。 二人は何度も対決しているような気がしていたんですが。
映画の影響といっても、私はNHK衛星映画劇場で放映された、嵐寛寿郎の主演作をいくつか見ただけなんですが。

テレビも中央公論版の全集も、「角兵衛獅子」を最後に持ってきたのは、この二人の対決で締めたかったんでしょうね。 どちらも、この続編に当たる「山嶽党奇談」が先に出ていて、そこはちょっと不自然な気がするのですが。

最初に挙げた2つの作品集のうち、文芸春秋の「傑作選」はこの「角兵衛獅子」「山嶽党奇談」と第1作「鬼面の老女」から連続する8作+1の短編集のみです。 これで傑作選と言っていいとは思えませんが、NHKドラマと連動しているようです。
初期の短編は最近殆ど活字化されていないそうで、そのことを恩着せがましく謳っていましたが、実はこの8作目の「香りの秘密」はずいぶん中途半端な終わり方をしているんです。 これは長編「御用盗異聞」につながって行くので、当然、次の巻にそれが出ると思ったら、全3巻、これで最終配本だなんて!
前に読んでいる私でも気になるのに、初めて読む方は欲求不満に陥ること間違いなし。
ちょっと酷すぎます。 出版社の良心を疑いますね!
読んでみようと思われる方、その点お気を付けください。

この傑作選は鞍馬天狗読本とセットになっていて(中央公論「決定版ー」のことはこれでわかりました)、「陰陽師」でおなじみの村上豊さんの表紙絵で、ちょっと洒落た作りなんですが、内容的には残念です。

鞍馬天狗読本」は、また改めてご紹介します。

鞍馬天狗「角兵衛獅子」 大佛次郎作 (小学館文庫「鞍馬天狗」第1巻)
                     (文芸春秋鞍馬天狗傑作選」1)