リーシーの物語

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ホラーはちょっと苦手です。 別に嫌いというわけでも、怖くて読めないというわけでもないのですが、読んでみようという気にならない。 だからスティーブン・キングの名はよく聞くけど、あまり読んでません。 もう、スピルバーグと混ざるくらい…って、ちっとも自慢になりませんが。

それが少し前、子ども向き(?)のファンタジーを読んで、わりと面白かったので、ちょっとハードル下がった感じです。 まあ、読んでみてもいいかな、と。

で、これは彼の比較的新しい作品。 訳者あとがきによると「おなじみの”作家の創作活動にまつわる秘密”」がテーマだそうです。
主人公は作家の未亡人リーシー。 有名作家だった夫スコット・ランドンは2年前に病死しています。
ようやく夫の遺品整理に手を付け始めたリーシーですが、亡夫の未発表原稿を求めて、研究者のみならず変質的なストーカーが身辺をうろつき始めます。 プライベートでは、精神的な問題を抱えた独身の長姉アマンダの処遇もリーシーを悩ませています。 リーシーは5人姉妹の末っ子で、他の姉たちも動いてはくれるのですが、それぞれに忙しい。
内外の問題が襲いかかってくる現在と、スコットとの生活で起こった重大事件の回想、スコットが語った凄惨な少年時代の記憶と、その傷を癒し彼の創作の秘密でもある不思議な世界「ブーヤ・ムーン」。 現在と過去、現実と幻想(?)が入り乱れて、クライマックスに収束していきます。

読んでみて、さすがだなと思います。
時間と空間、3人称と一人称が入り乱れているけれど、あまり読みにくさを感じません。 独特の言葉遣いもユーモアが感じられて、ちょっと伝染りそう。 言葉に関しては翻訳者の力もあるでしょうが。

リーシーは50過ぎで、それで未亡人というと、前に紹介した「魂萌え」の主人公と重なります。 「魂萌え」では主人公の友人達が賑やかで、中には精神的問題を持つ人物もいたけど、本作ではリーシーの姉たちがそのポジションに当たります。
けれど、この2作は比べものにならない程、日米の差が歴然。
ちょっと進んでいるように見える「魂萌え」の登場人物も、リーシー、アマンダ姉妹のバイタリティーの前にはふっ飛んじゃいますね。 「なんと彼(ら)は、日本的で、つつましく、時には気弱くさえ見えることであろう。」という、大佛次郎先生の嘆きも、ごもっともな気がします。
こういう人たちと同じ土俵、同じ基準で勝負したんじゃ勝てっこありません。
日本人は日本の良さを生かしながら、国際社会を生き延びる道を考えた方が良さそうです。


「リーシーの物語 上・下」 スティーブン・キング作 白石朗訳 (文芸春秋