宇宙戦争

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ウェルズといえばこれ、いやSFといえばこれ、という決定版。 「火星人襲来」といえば誰もが知っているでしょう。 パニック物の原型といえます。
でも実際に読んだ人は意外と少ないかも。 私も今まで読んでいませんでした。

タコのような火星人のイメージは、この作品で作られたと言われていますが、実際読んでみるとだいぶ違う感じ。
中身が殆ど脳の茶色いクラゲの様な生き物で、愛嬌よりおぞましさを感じます。
火星人そのものより、3本脚の巨大な戦闘マシーンの印象が強いです。 このマシーンは火星人の姿に似ているようで、そこに火星人が乗り込んで操縦するというのは、ガンダムエヴァンゲリオンのようなモビルスーツ兵器の先がけ的発想とも言えます。
そのほか作業マシーンや実際には出てこないけど飛行マシーンもあるようで、殆ど脳だけで生きている火星人が、それらを身体の替わりに操っているようです。

本作でも作者は、火星人や彼らの文明より、その襲撃によって引き起こされる人間の反応、本質を描きたいのでは、と感じられます。
作家である主人公やその弟の目を通して語られる、主人公自身も含めた人々の恐怖、パニックの有様、浅ましさ、身勝手さ。
印象的なのは火星人の残虐さを責める様子があまり無いこと。 彼らの破壊活動は淡々と描かれ、それは人間が他の動植物、いや同じ人間同士でも、文明人が未開と見なした人々にしたことと同じだと述べています。 19世紀末に既にその視点が示されているのはちょっと驚きでした。

本作にはロンドンとその周辺の地名がたくさん出て来て、知識がないと読みにくいです。 
巻頭に地図を付けてくれているのが有り難く、何度も参照しながら読み進みましたが、小さくて道路などは十分書き込まれていないので、主人公のたどる道筋が分かり難いところがあったのは残念です。

圧倒的な科学力の差がある火星人の前に、人間はなすすべもなく逃げまどうばかりです。
それなのに、最後に人類が生き延びることができたのは…。 
ここでも、ウェルズが既にこの時代に、生態系に対する鋭い洞察力を持っていたことに驚かされました。
この結末、現代人、特に日本人はしっかり味わってみる必要があるのでは。


宇宙戦争」  H・G・ウェルズ作  雨沢泰訳(偕成社文庫)