吾輩は猫である

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「坊ちゃん」を取り上げたから、やっぱりこれも書いておきましょう。 漱石先生のデビュー作(?)。 私はどっちかというと「坊ちゃん」よりこちらの方が好き。 それに去る9月13日はモデルとなった漱石の飼い猫の100年目の命日だったそうです。

内容は「坊ちゃん」と違って、はっきりしたストーリーが無く、ちょっと紹介しにくいです。
漱石先生を思わせる中学校英語教師、珍野苦沙弥先生の飼い猫が、先生と家族の日常や、家に出入りする個性的な人々のおかしなやり取りをつぶさに観察し、ユーモラスに描写した物、とでもいいますか。
まあ、読んでみてください。
長いようだけど短い章ごとにまとまっているので、気の向いた時に少しずつ読んでも良いと思います。

坊っちゃん」同様、この作品も近代日本の文学、文化に大きな影響を与えています。
身近にいるネコが人間を観察、批評するという着想がまず新鮮で面白い。 後で「吾輩は○○である」という亜流が続出したというのもうなずけます。 
実はドイツの作家E.ホフマンが「牡猫ムルの人生観」という作品を書いており、漱石がそれにヒントを得たという説もありますが、真似をしたわけではないと思います。

この作品のおもしろさは、猫が「吾輩」と名乗る大仰さと軽妙さが混じり合ったユーモラスな語り口、苦沙弥先生や友人達の俗世離れした個性と言動、これでもかと繰り出される洒落や冗談やトリビア(ムダ知識)の数々。 今年のNHK大河ドラマで「天璋院の御祐筆~」のなんたるかを知った人も多いでしょう。 博学知識に裏付けられているけど、別に身構えなくても、それこそ小学生でも気軽に読んでいけます。 アンドレア・デル・サルトやコンスタンティン・パレオロガスが何者か知らなくても、おかしさは何となく分かるというものです。

求めに応じて延々と書き続けるのに疲れたか、漱石先生、猫がビールに酔って水瓶に落ち溺死することにしてしまいましたが、モデルの猫はその後もかなり長生きしたようです。 その猫がかまどの上で死んでいたのが100年前の9月だそうです。
漱石はそれほど猫好きではないと書かれているのを読んだことがあります。 自分でそう語っていたそうです。 でもそれは、作中の三毛子の飼い主、二弦琴のお師匠さんのように猫可愛がりしない、ということではないでしょうか。
先の飼い猫が死んだ時、漱石は知人に(ついでかも知れませんが)死亡通知を出しています。
庭に作った猫の墓には「此の下に稲妻起こる宵あらん」という句を記した墓標をたてました。 稲妻は雷、猫がゴロゴロ喉を鳴らすのを偲んだものでしょう。 十分に愛していたのではありませんか。


吾輩は猫である」  夏目漱石作(青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card789.html