守人シリーズ 2 ー 天と地の守人

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守人シリーズ最終作「天と地の守人」は3部構成になっています。

前作「蒼路の旅人」の最後で、タルシュ帝国の侵略の道具として祖国に送り返される途中、その運命を逃れ活路を開くべく、海に飛び込んだチャグム。 帝国や北の国々では死んだと伝えられていましたが、その真意を知らされたバルサは、救援のため、彼が目指したはずのロタ王国で捜索に当たります。
これが第1部ロタ王国編。
第1部の最後で2人は再会を果たすのですが、第2部では北大陸の国々の同盟成立のため、バルサの故国カンバルを目指します。
そして第3部では、チャグムは同盟軍を率いて、帝国が侵攻を開始した祖国新ヨゴ皇国を救うべく駆けつけます。

第1部ではチャグムがなかなか登場せず、読者もバルサと共に彼の噂を追う事になります。
そしてようやく最後に再会する場面では、彼の印象は「蒼路の旅人」の最後に比べてもだいぶ変化しているのですが、不思議と違和感を覚えません。
第1作から読み継いできて、彼の人となりや成長ぶりを見てきており、噂から逃亡後の苦労やさらなる成長ぶりを推し測る事が出来るからです。 言葉で説明しなくても伝わるものがあるのですね。
それは、物語が10年かけて熟成してきたということだと思います。 物語の中の歳月は5年ですが。

人間世界の争乱と平行して異界ナユグにも大きな変動が起こり、それが人間界の気候にも影響して災害を引き起こそうとしていました。 それを予知して被害を最小限に食い止めようとする、タンダやトロガイ達呪術師。
しかしタンダは、徴兵された新婚の弟に代わって戦争に駆り出されます。
宮廷の若く優秀な星読み博士シュガは、第1作から登場しているチャグムの側近的存在です。 最終作では聖導師見習いまで上り詰めていますが、チャグムの失踪で宮廷での立場は微妙になり、その中で祖国を救うべく危険な賭に手を染めようとします。

天災から人々を救おうと命がけの術に挑むトロガイ。
捨て石の草兵として前線に送られるタンダ。
そして人々を戦災から救い、戦場で倒れたタンダを探して奔走するバルサ
全ての登場人物が精一杯生きようと努力する中、戦乱とナユグの異変は最高潮に達します。

主要な登場人物が殆ど生き残る結末は甘いと感じる方もいるかも知れませんが、子ども向きである事を考えれば私はこれで良かったと思います。
作者も、第2部あとがきに書いているバルサとチャグムだけでなく、全ての登場人物に思い入れが深く、誰も死なせたくなかったのかも知れません。
前にやや批判的な事を書いた同じ作者の「獣の奏者」 と違う所は、先に書いた物語の熟成という事と、この登場人物に対する思い入れ(愛情と言い換えても)ではないかと思います。

このシリーズのバルサとタンダの関係は、従来の男女の役割をひっくり返しただけのようで、もう少し工夫が欲しいと思っていたのですが、この作のタンダの出征で、その点は変化したようです。
タルシュ帝国の内情、とくに2人の王子の覇権争いについては、「獣の奏者」の政治について述べたのと似た不満を感じますが、こちらは作中の意味がそう大きくないので目をつぶっても良いでしょう。
「旅人」シリーズでは影が薄かったナユグの描写が、最終作ではまたよく出ていましたが、初期の作品に比べると妖しい魅力が薄れたようで、ちょっと残念です。


「天と地の守人 第1部ロタ王国編、第2部カンバル王国編、第3部新ヨゴ皇国編」  上橋菜穂子作 (偕成社