「守人」シリーズ 1

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10年にわたって書き継がれ、昨年完結した人気ファンタジーシリーズ。
どこかアジア的な雰囲気の国々を舞台に、人間の世界と異界ナユグ(国によって呼び方が違う)が隣り合って存在し、時に交錯する独創的なファンタジーです。

第1作「精霊の守人」は、精霊の卵を宿したため、不浄な者として父帝に命を奪われそうになった新ヨゴ皇国の皇子チャグムを、短槍使いの女用心棒バルサが助ける話です。
新ヨゴ皇国というのは、南の大陸から渡来したヨゴ人が開いた国だからで、ヨゴ人は「天の神の子」である清浄な帝が絶対的な権力を持ち、天の声を聞く星読み博士とその長、聖導師を中心にした政治を行う社会です。 この国には元々の住民であるヤクーがいて、彼らは異界ナユグを信じ、様々な伝承の知恵を持っています。
このように世界観が確立されており、その上で民俗的でユニークな細かい生活や風物の描写がしっかり書かれている所が、このシリーズの大きな魅力です。 独自の用語や( )内の注記も煩わしさを感じず、むしろ楽しんで読む事が出来ます。
ストーリーに戻ると、父の刺客だけでなく、精霊の卵を餌とするナユグの怪物からもつけ狙われるチャグムを、バルサや幼なじみの薬草師タンダ、その師であるヤクーの呪術師トロガイ達が助けようと力を尽くします。
彼らの尽力で卵から解放されたチャグムは、兄皇太子の病死という偶然から、皇太子として都に連れ戻される事になるのですが、そこから先の話に繋がっていきます。

バルサは北の山国カンバル王国の出身で、彼女自身が数奇な運命で国から命を狙われ、養父ジグロに助けられながら各地を放浪してきたのです。 彼女がチャグムを命がけで守ったのも、そのような自身の生い立ちと重ね合わせてのことです。
第2作「闇の守人」では舞台をカンバルに、バルサが自分の過去とも繋がる王国の秘密に関わっていきます。

第3作「夢の守人」ではバルサの幼なじみタンダがナユグの夢の花にとりつかれ、1つ置いた5作目「神の守人」ではロタ王国のタルの民の少女がナユグの恐ろしい神の依りましとなって、バルサが彼らを救うために活躍します。

これだけなら、やや風変わりなファンタジー群という所ですが、話が広がりを見せるのは、皇太子となったチャグムを主人公にした「旅人」シリーズが加わってから。
4作目「虚空の旅人」では南の半島と島からなるサンガル王国が描かれ、6作目「蒼路の旅人」ではサンガルが南の大陸のタルシュ帝国に侵略され、救援に向かって罠に落ち捕らわれたチャグムは帝国の北大陸征服の野望に巻き込まれ、話は大きく動いていきます。

そしてシリーズの締めくくりとなるのが、昨春発表された「天と地の守人」3部作です。
最終作については、改めて書く事にします。



「精霊の守人」
「闇の守人」
「夢の守人」
「虚空の旅人」
「神の守人 上・下」
「蒼路の旅人」    上橋菜穂子作 (偕成社