明恵 夢を生きる ~ 心理学者が見る高僧の精神世界

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7月に亡くなった心理学者、河合隼雄さんの代表的著作。

実はこの本、夫のもので家にあったのですが、いつか読もうと思ってそのままになっていました。 
家にある(買った)本は、いつでも読めると思うのでつい後回しになってしまう。 借りた本は期限があるので、そちらを先に読むことになります。 次々に本を借りて来ると家にある本はいつまで経っても読めない。 
これも私があまり本を買わない理由の1つです。

河合さんの訃報に接し、前から気になっていたこの本を読んでみました。

河合さんはユング心理学を日本に広く紹介した方で、一般向き著作も多く、ユーモアのあるわかりやすい文章が特徴です。 私も専門ではありませんが、学生時代から多くの著書に親しんで来ました。 
心理学的な解釈を現実の人や社会に当てはめるのは、専門家でなければ危険を伴い好ましいことではありません(専門家でも慎重を要するのは言うまでもありません)。 けれど、物語に当てはめて解釈するのは構わないのではと思っています。 神話や夢を重視するユング心理学は、特にファンタジーの解釈にはピッタリです。
というわけで、私がここに書いているものも、多分にその影響を受けていると思います。

本書では、そのユング心理学を駆使して、鎌倉時代の高僧、明恵の夢を解釈しています。 わかりやすいのが特徴と書いたけれど、この著作は少し専門性が高く、文章も堅くて専門用語も出て来ます。 けれどそこは河合さん、必要に応じて解説してくれているので、素人でもさほど無理なく読めます。 

明恵は京都高山寺所蔵の肖像にその面影を残していますが、その教えは現在では一般にはあまり知られていません。 浄土真宗の開祖、親鸞と同年の生まれですが、明恵はむしろ旧仏教を代表して、法然親鸞師弟と対立したようです。
その明恵が19歳から59歳までに見た夢を記録した「夢記」を残しています。

夢は現実にとらわれず奔放に展開するので、夢の話を聞くのはファンタジーを読むように楽しいものです。
800年程前の高僧はどんな夢を見たのでしょうか?
高い所に上る夢、知り合いが出てくる夢など、鎌倉時代も現代も人の心はあまり変わっていないのでは?と思うものもあります。 
けれど、当時は夢のお告げなど、今以上に夢の神秘性が深く信じられていたのですね。
明恵の夢も宗教的なものが多く、それを自分で解釈しているのも興味深い所です。

私が興味を覚えたのは、先に書いたように法然と対立していた明恵が、彼の教えを批判する「摧邪輪」を書いた前後に、法然を評価するような夢を見ているという事実。
著者は、はっきりとは書いていませんが、表面的には対立していた浄土系の法然親鸞と旧仏教系の明恵が日本の宗教精神史的に補完的関係にあったと考えているようなのですが、「摧邪輪」の内容、法然らと明恵の対立が具体的にどのようなものか書いていないので、ちょっと分かり難いのが残念です。 
この著書は明恵の夢を解釈するもので、鎌倉仏教や日本精神史を論じるものではなく、それについては参考文献を読むべきなのでしょうが。

宗教史的にあまり評価が大きくない明恵が、北条泰時貞永式目に影響を与え、その後の日本人の精神に潜在的な影響を与えたという下りにも、具体的な記述がないので同じようなもどかしさを覚えます。 
これも参考文献を読めばいいのかも知れませんが。 専門的で読みにくそうに感じます。

学術的な著作は一般人には取っつき難いものですが、それを親しみやすく紹介してくれた河合隼雄さんの存在の大きさを改めて感じました。


明恵 夢を生きる」 河合隼雄著 (講談社+α文庫)