デルトラ・クエスト

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子ども達に人気のシリーズ。

ファンタジーより子どもの本、という見方もあるかも知れません。

1冊が薄く、大人が手に取るにはちょっと気恥ずかしい派手な表紙。 クイズをちりばめた内容もいかにも子ども向きで、「指輪物語」や「ハリーポッター」の読者には、問題にならないと感じるかも。

でも、私はこのシリーズ結構好きです。

まず、ゲームに夢中な子どもたちに読書の楽しみを教えたいというコンセプトがいい。 
はっきりそう謳っているわけではないけれど、思いはひしひし伝わってきます。 だからケバい表紙も許せます。
1冊は薄いけれど、第1シリーズ8巻全体ではかなりの長さ。 シリーズを重ねるごとに1冊が厚くなり、クイズなど遊びの要素が減って普通の物語に近づくのも、考えてるなと思う。

内容は、3つのシリーズからなっています。
第Ⅰシリーズでは、デルトラ王国を狙う影の大王の陰謀で、国を守る力を持つデルトラのベルトが破壊されて、王国は影の大王に支配されます。 主人公リーフは王家と深い関わりを持つ両親の意志を継いで、城の元衛兵バルダ、沈黙の森で出会った謎の少女ジャスミンと共に、ベルトを復活させるため散らばったベルトの宝石を探す旅をします。
第Ⅱシリーズでは、影の大王によって影の王国に連れ去られた人々を助けるために地下世界を旅し、第Ⅲシリーズでは、デルトラを荒廃させるために影の大王が各地に仕掛けた、「歌姫」と呼ばれる装置を破壊するため、3人は旅を続けます。

主人公3人と彼らを取り巻く人々、旅先で出会う人々の個性がはっきりしているのも、わかりやすく読みやすいところ。
それでいて、決して単純に善玉・悪玉に色分けしていません。 
誰にも味方せず誰とでも取引するという、何でも屋のトムの様な存在もあります。
悪に引き込まれる人たちにも、それぞれの弱さ、理由がある。 影の大王によって作り出され使い捨てにされる影の憲兵達の運命もしっかり描いて、一方的に悪者扱いしていません。

その上で、主人公の活躍もデルトラのベルトが力を発揮するのも、大勢の人々に支えられていることを強調しています。
特に、ベルトに力を与えるために王国の全ての民族の代表が協力する所は、白豪主義から多民族共存国家を目指す作者の国オーストラリアの事情を反映しているのだろうと感じました。
この点はオーストラリアだけでなく、これから国際社会に生きていく世界中の子ども達に重要な考え方でしょう。
異文化、宗教に対する偏見に満ちた「ナルニア国物語」などより、子どもに読ませるにはよっぽど好ましいと思います。

最終シリースの結末には物足りなさを感じる人もいるかも知れません。
けれど、この物語での悪は象徴的なもので、誰の心にも忍び込んでくるもの、それに負けないためには、常にベルトを手放さないように、自分の心をしっかり持つしかないのだということでしょう。

子ども達がこの本に読みふけっていても、心配せずに心ゆくまで読ませてあげてください。


デルトラ・クエスト」シリーズ Ⅰ全8巻
                   Ⅱ全3巻
                   Ⅲ全4巻  エミリー・ロッダ作 上原梓訳(岩崎書店