鼓笛隊の襲来

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前の「となり町戦争」では、あまり良く書かなかったのですが、ありふれた日常とあり得ない奇抜な設定の取り合わせは、やはり魅力があります。

本書は9編からなる短編集。 
奇抜な着想や作者の資質は、長編より短編向きという感じです。 身も蓋もない言い方をすれば、長編より短編の方がボロが出難いとも言えますが。 まあ、前作よりは読みやすかったのですが、やはり何かが足りないという感じが残ります。

それはユーモアかも知れません。 
台風の襲来を鼓笛隊に置き換えた表題作などは、それだけで可笑しいはずなのですが、何か笑えないんです。 
作者は真面目すぎるのかも知れない。 でも、「となり町戦争」がそうだったけど、深刻ぶられるほど、こちらとしては白けてしまうんです。 この作品は深刻ぶってない分、読みやすくはあるのですが、最後に鼓笛隊員を登場させる必要があったかなど、疑問点もあります。 鼓笛隊の正体をあいまいにするならそのままにして、登場させるならきちんと描写して欲しかったと、個人的には思います。
本作のおばあちゃんの人物造型はわりと好きですが。

比較的安定していると思えるのは「遠距離・恋愛」。 この作に、この題名でいいかという疑問はありますが。 
「遠距離」というのが上下の距離、浮遊都市を舞台にした着想が面白い。 そして、この人には珍しい予定調和的ハッピーエンド(?) この作も浮遊装置の人身御供(?)にされている沙紀という少女に焦点を当てて、いくらでも深刻な物に出来るはずですが、ここではそうしていない。 まあ、いろんな雰囲気の物があって良いということでしょう。
明るい作品ですが、逆に全てがこんな風だったら、安易で甘ったるい感じがしてしまうでしょうね。

この人の作品の感想に、「あざとい」というものがありましたが、言い得ていますね。
平岩弓枝さんは「着想だけでなく熟成に時間をかけて…」と評していますが、あざとさを感じさせ無いように熟成すれば、期待していい作者だと思います。


「鼓笛隊の襲来」  三崎亜記作(光文社)