陰陽師 瀧夜叉姫

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安部晴明が主人公の人気シリーズ。 大体読んでいるんですが、比較的新しい長編で紹介します。

魑魅魍魎や人間の業を扱って、おどろおどろしく残酷な描写もあるけれど、あまり抵抗なく読めて後味が悪くないのは、源博雅の存在とそのキャラクターによるところが大きいでしょう。 
ほかにも好きなキャラクターはあるけど、その一人が賀茂保憲。 晴明の兄弟子で師匠の賀茂忠行の実子でもあり、晴明のライバルともされるので、他の晴明物では嫌な人物や俗物として描かれることもあるけれど、晴明と並び称される大陰陽師がただの俗物ではつまらないでしょう。 それで、この夢枕版「陰陽師」の描き方は気に入っています。

作者もどこかで書いていましたが、この「陰陽師」シリーズでは安部晴明をシャーロック・ホームズ源博雅を相棒ワトスン博士になぞらえています。 そうすると、兄弟子で晴明に勝るとも劣らぬ実力を持ちながら、活動嫌いで面倒なことは晴明に押し付ける賀茂保憲は、ホームズの兄マイクロフトということになりますね。 
晴明のライバル蘆屋道満は、さしずめホームズの宿敵モリアティー教授というところです。 でも、このモリアティー道満、なかなか愛嬌があって憎めない。 もうすっかり裏晴明ファミリーという感じです。

その道満や保憲、保憲の式神、猫又の沙門(こういう名前だと初めて知りました)も活躍する本編は、平将門の乱から20年後、将門復活を企てる陰謀と、阻止しようとする晴明たちや乱鎮圧の関係者の奮闘を描いています。 
表題の瀧夜叉姫は将門の遺児で、陰謀の中心的存在。 しかし、彼女の本当の気持ちは? 彼女を利用する黒幕の正体は? と上・下2巻最後まで一気に読ませます。
最後はやはり、博雅の存在が救いになっていますが、将門の好敵手、俵藤太、平貞盛の息子、維時もいい味です。

欲を言えば、黒幕の正体が現われるところがあっさりしすぎているかも。 彼がなぜ妖術が使えるのか、なぜ乱のときにもっと使わないのかも、納得しにくい。
それと、本編には博雅が笛を吹くシーンがないこと。 短編はともかく長編には、お約束として1度は登場させてほしいですね。

陰陽師 瀧夜叉姫 上・下」 夢枕 獏作 (文芸春秋