となり町戦争

 平凡な日常と戦争の同居という奇抜な設定が気になって、手に取ってみました。

 戦争が地方自治体の公共事業という設定で、お役所の仕事を皮肉に描いている所は理解できます。
途中にちりばめられた、この地上のどこかで戦争が起こっていることを知りながら無関心を決め込んでいることや、「戦争=悪」というステレオタイプな批判しかできない事に対する指摘もうなずける点はあります。 レオナルド・ディカプリオ主演の「ブラッド・ダイアモンド」という映画では、ダイアモンドが軍資金として取引される世界が描かれています。 お洒落のつもりで割安なダイアモンドを買うことが、実は戦争に協力していることになるかも知れない現実があります。 
 
 しかし、読み進むに従って、そのような問題を掘り下げるでもなく、作り物めいた所が鼻につくようになりました。

 どうやらこの舞台は、現実もしくは近未来の日本のように見えて、全く架空の世界のようです。 最後の方でチラリとそれとなく示唆されています。 そんな世界で、例えば、20年も前からとなり町にスパイを送り込むような準備をしているなら、当然、教育(洗脳?)や広報も行われているはずで、主人公のように、あたかも現代日本人のような戸惑いや疑問を感じる方が不自然な気がします。
幼稚園児の帰宅をさけて戦闘をするような配慮をしながら、敵の戦死者を埋葬も引き渡しもせずクリーンセンターで焼却するなんて、現実の戦争でも国際法違反になるようなことをするのは矛盾も甚だしいでしょう。 戦争の理不尽さを描きたいのかもしれないけど、作りすぎで鼻白む感がします。
時代劇で電柱や高速道路が目に付くような感じですね。

設定の目新しさだけで消化不良な作品でした。

「となり町戦争」 三崎 亜記作(集英社