インフルエンザ感染爆発 見えざる敵=ウイルスに挑む

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子ども向けの本なのですが、新型インフルエンザ国内発症ということで、ノンフィクションに分類しておきます。

このシリーズは新感覚ノンフィクションと称して、写真や絵を多用して、視覚に訴えイメージを掴みやすくしているのが売りらしい。 本も薄く字も大きくてすぐに読め、子ども向きの解説もわかりやすいので、予備知識のない大人にも好都合でしょう。
過去を記録し、分析・研究して現在に生かす、それこそ、本・読書の最大の効用でしょう。

内容は、1918年春から世界的に流行したインフルエンザ(日本では通称「スペイン風邪」)の記録と、そのウイルスを同定しようと試みる科学者の取り組みを伝えています。

この時のウイルスは、現在流行中の豚インフルエンザH1N1型と近い物のようで、冒頭の感染地域の地図や、発症時期、拡がり方、若い人たちを中心に流行したことなど、類似点が多く見られます。
注意しなければいけないのは、春にアメリカで発生した時は、それほど強力でなかった物が、世界に広がるうちに8月頃から急に毒性が強くなっている点です。 そして、2000~4000万人(もっと多いという説も)の死者と社会的混乱をもたらして、1920年には消えていったということです。

後半はウイルスが病気を起こす仕組みや、ワクチンの作り方、そして1918年のインフルエンザウイルスを採取しようとする試みが紹介されているのですが、残念ながら、流行時の一般人が出来る対策については書かれていません。 それは別の所を見た方がよいでしょう。
著者、訳者も述べているように、1918年当時と現在ではワクチン技術や抗インフルエンザ薬も開発され、マスクの性能もうんと良くなっています。 いたずらに慌てたり不安を持つ必要はないでしょうが、だからといって油断は禁物でしょう。

訳者あとがきの追記に、2005年10月6日、本文で紹介されていた、アメリカ陸軍病理研究所のチームが1918年のインフルエンザウイルスの遺伝子を解析し、人工的に合成するのに成功したとか書かれていました。
それから3年半が経っています。 さらにかなりの知識が蓄積されているはずです。 
それを今こそ人類のために公表し、今回の世界的流行、強毒化を食い止めるために役立てて欲しいと、強く願います。


「インフルエンザ感染爆発 見えざる敵=ウイルスに挑む」 デイビッド・ゲッツ著 西村秀一訳(金の星社 ノンフィクション 知られざる世界シリーズ)