プリンセス・トヨトミ

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(震災後の)この時期に、この作を取り上げるのは正直抵抗があるんです。
でも映画が公開されるので、そうなるとまた書きそびれるので駆け込みで…。

読んだことない人も映画の宣伝でご存じでしょうが、大阪に陰の独立国があって、それは表題の豊臣家の遺児を守るための物、という荒唐無稽なお話。
鹿男あをによし」の万城目学さんの作で、関西を舞台に歴史を連想させる登場人物が活躍するおかしな話というのがお約束。
今回も大阪国の秘密に迫る会計検査院の調査官が松平、鳥居など徳川方、対するのがお好み焼き屋の主人にして大阪国総理大臣の真田父子を始めとする豊臣方、というわかりやすさ。

真田家の息子で中学生の大輔君は性同一障害らしく、悩んだ末セーラー服で登校しています。 けれど、いかにもの美少年ではなく、幼なじみの橋場茶子に「似合わんなあ」と言われる太め少年。 運動能力、度胸もさっぱり。 大輔は幼い頃から茶子に守られっぱなし。 茶子がまた異常に強い。
ここのところ、実はプリンセス・トヨトミである茶子と大輔の関係をありきたりのお姫様とナイトの関係にしないようにという作者の意図はよく分かるのですが、ちょっと作り過ぎの感もあります。

一方、松平ら調査官達は大阪国の秘密を知り、クライマックスの大阪全停止、会計検査院vs.大阪国の対決となるのですが、この場面、関西人の私にして、いまいち高揚感、爽快感がありません。
ひとつには、たった一人のために5億円? おっちゃんのロマンのために5億円? という疑問がつきまとうこと。 
事業仕分けの対象になりませんか? 会計検査院じゃなくて蓮舫さんが乗り込んで来るんじゃないの?
もっと大勢の子ども達のために使って欲しい。 今なら被災地に送ろうよ、と思いますが。

それから大阪国が男だけのものであることも、引っかかるところです。
もともとは徳川幕府に抵抗するものなので、女子どもを巻き込まないためだったようですが、女達は実は感づいていて好きなようにさせてやっている。 そもそもの始まりも豊臣家ゆかりの女性の意志によるもの、という落ちになっています。
鴨川ホルモー」の「女人禁制」とやらも内実を知ると羨ましくも何ともない物。 
けれど、古代から「女ならでは夜の明けぬ国」ということで「男はこのとおり馬鹿なものです、何事も女性の皆さんのおかげです」と女性を持ち上げるフリをしながら、結局は男が好き勝手しているんじゃないかと感じるのですが。

ともあれ、「東京がなんぼのもんじゃい!」というのが浪花の心意気のはず。 「寄らば大樹の陰」「長い物に巻かれろ」なんて似合わない。
それなのに現実は知事が旗を振って、国歌・国旗を条例で強制しようとしている。 
この時期、被災地支援とか、防災、省エネとか、やること他に沢山あるでしょ! 何でよりによって中央に媚びる無意味な条例なんだ!  地方分権と矛盾してるじゃない。 それを多くの府民が支持してるなんてのも情けない。 自分たちの(選挙での)選択が間違ってることを認めたくないのかね? 大阪がコケたら関西全体が迷惑するんだから、もっとしっかりしてよ!


プリンセス・トヨトミ」   万城目学作(文芸春秋