陰陽師 「瘤取り晴明」

以前、長編を紹介した「陰陽師」。 これは絵本仕立ての中編ですが、このシリーズの魅力の1つを典型的に表しています。

このシリーズ、日本人なら誰でも知っている伝説、説話を下敷きにしたものが多いです。
それでいて、単なるパクリとは思わせない、
「なるほど、そう解釈するか」
「へえ、そんな風にも読めるんだ」と感心させられることが多い。
誰もが知っているおなじみの素材を見事に料理してみせる、これがその魅力です。

で、この作品、題名からもわかるように昔話「瘤取りじいさん」を下敷きにしています。
瘤のある二人のおじいさんは双子の薬師、その瘤は長年毒見してきた薬草のエキスが詰まったもの、薬狩りに行って茸取りに夢中になり深入りした山の中で百鬼夜行の宴会に出会って…と陰陽師風に解釈して、前半の展開はほぼ昔話の通り。 しかし、双子の弟は瘤を2つ付けられ、兄はもう一度化け物達の前で踊る約束をさせられ、困り果てて相談を持ちかけられた晴明の登場となります。
晴明と博雅は呪によって双子に成り変わり、百鬼夜行の一行と共に宴会場の山の中へ。

その後の展開はだいたい予測が付きますが、まず期待通り。
長編での不満はスッキリ解消です。

百鬼夜行の一行の中にはファンには懐かしい(?)面々も。
その一人に、シリーズの初め頃登場した黒川主がいます。
カワウソの妖怪、黒川主は人間の女に子どもを産ませますが、晴明はその子を川に流してしまいます。 それは父親である黒川主に子どもを返してやったので、今では父子仲良く暮らしており、黒川主もその晴明の計らいに感謝していると知って、なんだかホッとしました。
シリーズが続くうちに妖怪の性格も少し変わってきたかなと感じます。

この作品はもともとHPの書き下ろしだったそうで、作者も画家も楽しんで取り組んでいることが伝わってきます。

陰陽師 瘤取り晴明」 夢枕獏作 村上豊画 (文藝春秋)