川の光

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東京郊外の川辺に住むネズミの一家が、開発工事で住みかを失い、安住の地を求めて冒険の旅に出る物語。

読み始めてすぐ、「これはちょっと…」と思ってしまいました。
一家は母親を亡くして父親と兄弟の3匹なのですが、兄のタータは弟チッチより1歳年上、ネズミって1歳ともなるともう大人じゃないですか? 
ネズミ算式というように子沢山でも知られる。 それなのに1年に1匹ずつしか生まれてないのも変。
こういう細かい所をゆるがせにされると、私はどうも引っかかってしまうのです。

ネズミが主人公というと昔読んだ「ガンバの冒険」(斉藤惇夫作)、安住の地を求めて小さな一家が旅をするというと「床下の小人たち」シリーズ(メアリー・ノートン作 http://blogs.yahoo.co.jp/myrte2005/41594916.html)を思い浮かべます(これらも機会があれば紹介したいですが)。
似たような話と思っていましたが、図書館に住む孤高のドブネズミ、グレンに出会うあたりから面白くなり、細かい違和感は気にしなくなってきました。
一家は上流に移住しようとしてドブネズミ帝国に進路を阻まれ迂回中なのですが、グレンはかつて帝国にクーデターを起こそうとした生き残りだったのです。
川の光」という題名は、そのグレンの詩の言葉から来ています。 そこからもわかるように、この物語の主人公はクマネズミ一家ですが、実はグレンこそ物語の中心的存在なのです。

グレンが登場してからは、雀やモグラ一家はもちろん、犬や猫、果ては人間との友情(?)も、ご都合主義もお好きにどうぞ(笑い)という気になってきました。 それが先に挙げた2作と違う存在感を示す「物語の力」でしょう。

晩夏から初冬にかけての冒険の末、一家はお約束の安住の地にたどり着きます。
結びの言葉では、まだ続編がありそうですが、私としては、この一家の物語はもうこれで良いのではと思います。

エピローグで、モグラ一家や不思議な猫ブルーの消息を知らせるのは良いとして、グレン達ドブネズミ・レジスタンス(作中この言葉は使ってなくて「反乱軍」としているのですが、グレンの雰囲気からはレジスタンスの方がふさわしいと私は思います)のその後は簡単に書いてしまわないで、改めて別の物語にしてくれた方が読者は嬉しかったと思います。

この作品は、読売新聞の連載小説だったそうですが、内容から子どもの本としておきます。
新聞小説で児童文学を掲載しても良いし、それを機会に多くの人に児童文学の良さを知ってもらうのは嬉しいことです。
しかし、帯に「空前の反響」とありましたが、それは逆に、現代日本の大人の小説が面白くない、広い世代で楽しめないということで、手放しでは喜べないと思います。


川の光」 松浦寿輝作(中央公論新社