耶馬台

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題名からも分かるように、古代日本に想を取った連作。

あとがきによると、魏志倭人伝卑弥呼古事記日本書紀に出てくる倭迹迹日百襲媛(やまとととびももそひめ; 作中では鳥飛女王)、その後継者、臺与(とよ)を同じく、豊鋤入媛(とよすきいりびめ)とする説に基づくそうです。

各章末尾の古事記日本書紀からの引用と比べると、作者の解釈、どのように話を膨らませたがうかがわれて面白い。
ここに出てくる巫女王達は、倭人伝の強大な権力者のイメージではなく、男性権力者に規制され、利用される存在(それなら倭人伝のように表面に現れるのか疑問もありますが)。 また、天つ神を奉じる征服者である大王家と、国つ神を信じる在来の部族との対立、かけひきが根底に横たわっています。 その中で人間の誇りを護って生きようとする女性達の姿が、静かな感銘を与えます。 
3作目「月明」は、丹波から召し出された姉妹が、不幸な王子(2作目の主人公である佐保一族の娘の遺児)の守り役として尽くすが、宮廷の軋轢(あつれき)や権力をもてあそぶ男の圧迫に敗れて死を選ぶ話です。 元の古事記・書紀では「丹波から召し出された5(4)人姉妹のうち、末の2人が容貌が醜いからと返される途中、それを恥じて自死を遂げた。」というだけのものです。 「そんな単純な話じゃないでしょ!」という、作者の女性ならではの視点と静かな怒りが伝わってくるようです。

私は作中繰り返し出てくる、大和盆地が大きな湖で、大和三山が島であった太古のイメージが気に入りました。
神話・伝説と、考古学だけでなく自然史などの新しい知識を組み合わせると、まだまだ面白い物語が出来るのではないかと思います。


「耶馬台」  中井真耶(文芸春秋企画出版部)