龍使いのキアス

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作者は中央アジアを舞台にした伝奇歴史シリーズを書いていますが、これは独立したファンタジー。 舞台もちょっとアジア風だけど、無国籍な架空のロール世界。

様々な文化と宗教を持つ民族が住むアギオン帝国は、およそ350年前、侵略者を退けた神皇帝アグトシャルによって統一されたもの。
帝国の西、モールの神殿の巫女は女神ノアナンに仕え、強い呪力で国全体に影響力を持っていたが、帝国樹立後なぜかその力が衰えているという。 他にもこの国には様々な歪みが現れています。
見習い巫女キアスはかつての強い呪力を持つ巫女、中でも異端といわれたマシアンに憧れ、アギオン族の支配に反発しています。 キアスは捨て子で、自分自身アギオンの血を引いているかも知れないのですが。
各民族の風習が面白い。 
モールの巫女を出すモールマイ族は女の子が生まれると神殿の西の谷にモールの木を植え、それをその子の「根」と称して、生涯深い結びつきを持ち、年老いて死んだ時はその木で棺を作ります。 似た風習は日本のある地方でも聞いたことがあります。 キアスが憧れるマシアンは帝国草創のある時行方不明になったのですが、その「根」であるモールの木は生き続けています。 マシアンはまだ生きているのでは? マシアンの行方と巫女の呪力の衰えには関係があるのでは? キアスはマシアンを探しに行くことを夢見ます。
一方、都のアギオン族の神官達は、龍を呼び出す巫女が現れるというアーグ神の予言に巫女達の追求を始めます。 彼らは龍は秩序を乱すものと警戒しているのです。

養い親の大巫女ナイヤ様が亡くなり、正式の巫女になるための「呼び出し」の儀式にも失敗したキアスは神殿を追われることに。 帝国各地を旅し様々な人々と出会って、キアスは成長し巫女としての力も強くなっていきます。 キアスの出自、マシアンの行方、帝国の秘密も次第に明らかに…。

骨太のファンタジーというと、私はまずこれを思い浮かべます。
世界の構築も、細部の描写もしっかりしていて、ユーモアも適当にあり、好きな作品です。

しかし、今回読み直して、ちょっと違和感を覚えるところもありました。
歪みの出たアギオン帝国と、現代日本の社会が重なって見えるのです。 世襲で役割や生き方(皇帝一族は名前まで)が決められている、というような所です。
歪みを正そうと、キアスや皇帝の一族である小イリットら若者達が奮闘するのですが、それに比べてキアスや小イリットの親たち、この国の大人はやや頼りない。 これは作者の日本の若者達への、頑張って社会を正せというメッセージなのでしょうか。
もしそうなら、若者にばかり責任を押しつけるのはどうかと思います。 皮肉な見方をすれば、「若者は反抗し、行動し、世界を変えるもの」というのも一種の役割の押しつけです。
決して今の日本の若者がダメだというつもりはないけれど、彼らにキアスや小イリットのような厳しく激しい生き方を押しつけることは出来ない。 今、若者は生きにくい、頑張りにくい状況に追い込まれています。 そうしてしまったのは我々大人の責任も大きい。 若者を叱咤激励する前に、大人がもっとやるべき事があると思うのですが。


「龍使いのキアス」 浜たかや作 (偕成社)