ルガルバンダ王子の冒険

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5000年以上前の古代メソポタミアのお話しを元にした絵本。

古代メソポタミア、シュメール文明については、まだ分かっていないことも多く、ちょっと馴染みが薄いです。 内容はよく知りませんが、「ギルガメシュ叙事詩」の名は聞いたことがあります。 そのギルガメシュ王の父王が、この絵本の主人公ルガルバンダだそうです。

絵本の始めと終わりにシュメール文明とその発掘、この物語が世に出た経緯が紹されています。 
それによると、この物語は4500年前の粘土板に楔形文字で掘られていたそうです。  それが約150年前に発掘され、ヨーロッパの研究者が解読し、英語に直して語り物にされていたのを、作者達が絵本に仕立てたということです。
画家はこの絵本のために大英博物館に通い詰めたということで、日干し煉瓦を思わせる茶色を基調にした、精密で見事な絵を描いています。

ルガルバンダとは小さな王子という意味。 都市国家ウルクの第1王朝3代エンメルカル王の末の王子とされています。 エンメルカル王は、宝石と金銀細工で栄えた都市国家アラッタを手に入れたくて、遠征して行きます。 まだ子どもであるルガルバンダも7人の兄と共に従軍しますが、ザブー山脈まで来た時、倒れて意識不明になります。 兄たちはルガルバンダを食料と共に洞窟に残し、遠征を続けます。
  
意識を取り戻したルガルバンダは太陽神ウトゥや月の神ナンナーシンの力で回復し、遠征軍を追ううち、ルルブ山脈で巨大な霊鳥アンズーに出会います。 その雛に捧げ物をして気に入られたルガルバンダは、様々な贈り物を断って、疲れず速く走る力を望んで授かります。

ようやく追いついた遠征軍は1年間アラッタを包囲しますが勝利を得られません。 それはウルクの守護神である愛と戦いの女神イナンナ(明星の女神)が遠征軍を見放してウルクに帰ったからだと考えた王は、女神の意向を尋ねるため軍旗を携えてウルクに帰る使者を送ろうとします。 名乗り出たルガルバンダはアンズー鳥に授かった走る力でウルクに帰り、女神イナンナを訪ねます。
それに対して女神は謎かけで答えます。
「川の岸辺に、魚の群れる浅瀬がある。そこに神の池がある 小さな魚がいっぴき、水草を食べ、それより大きな魚がドングリを食べ、いちばん大きな魚がたのしげにはね回る。 池のみぎわのタマリスク(生命の木)の木の中に、一本だけはなれて立つ木がある。その木を切り倒して器を作り、一番大きな魚を捕らえて器に入れ、神がみに捧げなければならない」
さらに女神はこうも言います。
「アラッタを討ち滅ぼしてはならぬ! 細工を施した金属や石の彫刻や、芸術家や職人の安全を守り、戦いで傷んだ都を元のように整えるならば、その時初めて、再び勝利と馬上の祝福を得られる」

女神の伝言を聞いた王はその謎を解き、さらに言いつけに従ってアラッタを修復し、芸術家や職人とその作品を保護したので、勝利と富を得たといいます。
後に王となったルガルバンダも芸術を保護し、沢山のアンズー鳥の像を造らせたそうです。

シュメールの遺跡は現在のイラクにあります。
著者がこの物語が語られるのを聞いたのは2003年、アメリカ軍のイラク侵攻直前だったそうです。
女神の言葉はまさにアメリカに向けられたものに思えたでしょう。
これを現在の人々に伝えたいとこの絵本を作ったそうです。

実はこの絵本の中では、女神の謎の意味と、それがどのように解かれたかは語られていません。
その謎は、現在を生きる私たちへの、女神からの問いかけのようにも思えます。
答えを記した粘土板はまだ解読されていないのか、それともまだイラクの砂の中に埋もれているのでしょうか?

 キャシー・ヘンダソン再話(語りフラン・ヘイゼルトン) ジェイン・レイ絵 百々佑利子訳(岩波書店)