影の王

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作者スーザン・クーパーはシリーズ物の児童ファンタジーで知られていますが、これは独立した作品。
タイムスリップ物です。

主人公ナット(ネイサン)・フィールドはアメリカの少年劇団の俳優。 シェイクスピア時代から400年ぶりに再建されたグローブ座で「真夏の夜の夢」の妖精パック役として出演するため、劇団主宰のアービー(通称)に率いられてイギリスに渡ります。
ところがロンドンに着いたとたん熱に浮かされ、気がつくとそこは400年前、エリザベス朝のロンドン。 その時代のグローブ座では、ウィリアム・シェイクスピア自身が妖精王オベロンを演じる「真夏の夜の夢」のお忍び御前公演が計画されていました。
そのパック役として、同名のネイサン・フィールドという少年俳優が、聖ポール少年劇団から借り出されていましたが、どうやらナットは彼と入れ替わってしまったようです。
戸惑いながらもシェイクスピアの相手役として稽古に努めるナット。

このシェイクスピアがとても素敵なんです。
彼についてはわからない事が多く、実在を疑う説さえ有ります。
今に伝わる肖像(作中には「まったく似ていなかった。」とあります)を見ると、なんだかキザな感じもするのですが、本作のシェイクスピアは洞察力に富む温かい人柄。
実はナットには両親がおらず、そのことで心に深い傷を受けているのですが、会って間もないシェイクスピアは鋭くそれを見抜きます。
シェイクスピアとの交流に心を癒されていくナット。

御前公演は大成功に終わりますが、それはシェイクスピアとの別れを意味していました。
翌朝、目が覚めたナットがいたのは、現代のロンドンの病院。 もう一人のナットはペストの熱で意識朦朧として入院生活をしていたようです。
シェイクスピアを失った心の痛手に打ちのめされながらも、ナットは彼を信じる劇団仲間のギルやレイチェルの協力で、もう一人のネイサン・フィールドとシェイクスピアのその後を調べますが…。

題名の「影の王」とは妖精王オベロンのことですが、もっと隠された意味もあるように思います。
クーパーの作品には時を超える存在が登場するのですが、イギリスあるいはケルトの伝承から来ているのでしょうか? その方面にあまり詳しくない私には、その正体というか本質がピンとこなくて残念です。


「影の王」 スーザン・クーパー作 井辻朱美訳 (偕成社)