デルトラクエスト ~ デルトラの伝説

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前に紹介した「デルトラクエスト」シリーズの番外編。
http://blogs.yahoo.co.jp/myrte2005/25854401.html

本編で部分的に触れられる「デルトラ年鑑」記載の伝説や、「デルトラのベルト」の作成者である初代国王アディンの冒険と業績を、王室図書館員ジョセフがまとめたという体裁です。
指輪物語」に対する「シルマリルの物語」に当たるようなものです。 「指輪ー」のファンには「同レベルに扱うな」とお叱りを受けるかも知れないけど、まあ良いじゃないですか。

内容的には、はっきり言ってパワーダウンは否めません。 
でもシリーズのファンには、「あれはどういう事なの?」と気になるところに応えてくれるのは魅力でしょうね。 
クイズ的要素もほとんど無くなっているけど、それなりに楽しんで読めます。

けれど、前に表紙、挿絵のケバさは許せると書いたけど、最後の方の挿絵のアディンは許せないなぁ。
彼我の美的感覚の差もあるでしょうが、アメコミ(殆ど見た事無いけど)のヒーローがかっこいいと思えないように、漫画・アニメで目の肥えた日本人には、このアディンはいただけないと思いますよ。

そういえば本編では、モンスターや端役の挿絵はあるけど、主人公リーフを始めとする主要人物の挿絵は全く無かったんです。
それが読者の想像力をかき立て、自分なりの主人公像を持って読むことが出来たと思うのですが、その良さを何故ここに来て捨ててしまったんでしょう?

とは言え多民族協調の理想は番外編でも健在。
アディンがベルトに取り付ける各民族の守護の宝石を求めて旅をした時、凶暴、残忍と思われているジャリス族や小人族が真っ先に協力してくれるのも、思い込みや偏見で決めつけてはいけないと教えているようです。
それに対して、魔力を持ち平和的なトーラ族は、自分たちの安全さえ守れればと協力しようとしません。
もちろん彼らも最終的には協力して影の大王を退けるのですが、平和を取り戻した後、ギリギリまで非協力的だった自分たちの負の歴史を隠そうとします。
その様に過ちを認めず隠そうとした事が、再びデルトラに悲劇をもたらしたとジョセフは指摘しています。
最終話の、国王に疑われて王宮を逃れ、本編Ⅲシリーズに出てくる仮面一座の始祖となる王弟の話と共に、真実を隠さず伝える事が、過ちを繰り返さないために必要だという事です。

それが作者の国オーストラリアの政治に現実にどの程度反映されているかはともかく、何処の国や民族にも当てはまることは言うまでもありません。


デルトラクエスト ~ デルトラの伝説」 エミリー・ロッダ作 神戸万知訳(岩崎書店