カレンダーボーイ

ノスタルジック タイムトラベル小説と帯にあるように、タイムスリップと郷愁の(?)昭和ものの組み合わせ。

目新しいのは、タイムスリップしてもしばらく行きっぱなしじゃなくて1日毎に過去(1968年)と現代(2006年)を行き来することと、当事者が二人、東京の私大教授の三都充(みとみつる)と同じ大学事務局長の安斎武(あんざいたけし)であること。 二人は1968年には札幌の小学校で5年の同級生でした。 過去68年を三都が、現代を安斎が交互に語っていきますが、この仕掛けは最後に効いてきます。
48歳の意識と記憶を持ったまま小学生に戻った二人が、戸惑いながら試行錯誤するうち、過去は変えられること、しかし、その影響と思われる歪みが、現代のみならず過去にも現れることを知ります。

「何かを得れば、何かを失う」 
それがこの作品のキーワードになっています。

けれど、どんな影響が出るかわからなくても、二人には変えたい過去がありました。
それは東京に引っ越した後、68年末に起きた3億円強奪事件が原因で一家心中した、同級生の少女を救う事。
それに安斎は、3億円が必要な仕事上の問題を抱えていたのです。

犯人から3億円を奪い取り、少女一家の心中を防ぐ。
現代と過去を行き来しながら、二人は計画を練り実行に移していきます。

いかにものご都合主義や、肝心の山場が肩すかし、という感もありますが、さほど不満には思いません。
この作品は、そういう事を書きたいんじゃないことが納得出来るから。
苦手なところはサッと流して誤魔化すのも有りかな、と思ってしまいました。
ただ、三都の姉の人物造型には不満が残る事は言っておきます。

結末は付いても、いくつかの謎や疑問は残ったままですが、それは続編という形ではない別の作品で、もしかしたらあの話と繋がってるのかな?と思える形で書いていけば、と思います。


「カレンダーボーイ」 小路幸也作(ポプラ社