魔術師ペンリックの使命

L.M.ビジョルド五神教シリーズの新作ペンリック物の続編。

前作「魔術師ペンリック」最終話から数年後、主人公ペンリックは30歳になってアドリア大神官の魔術師になっています。 前作の舞台ウィールドがドイツにあたるとすると、アドリアはイタリアらしい。 でも本作の舞台はアドリアではなくセドニア。 こちらはギリシャにあたるようです。 それじゃ他にも出てくるオルバスとかルシリはどこにあたるの?という事で、出だしからいろいろ戸惑います。 もういちいち現実世界と照合しないで異世界ファンタジーと割り切ってしまえばいいのかも知れません。

アドリアの魔術師ペンリックがセドニアに渡ったのは、大神官の兄にあたるアドリア大公の密書をセドニアのある将軍に届けるため。 しかし、アドリアの傭兵として働きたいという将軍の手紙自体が彼を陥れるための陰謀で、利用されたペンリックはセドニアに着くと同時に逮捕監禁され、持ち込んだ密書を根拠に将軍は逮捕されて両目を酸で焼かれてしまいます。 庶子神の魔デズデモーナの力で脱獄したペンリックは将軍を探し当て治療と逃走を助けることに。 1話がそれぞれ独立していた前作と違って、本作は3話の連作になっています。

マーテンズブリッジの王女大神官の宮廷魔術師からアドリアに移ったのはなぜか、その間に何があったのかは1話目の最後の方でペンリック自身が将軍の異母妹に語っています。 ルレウェン王女大神官ばかりか実の母も亡くなり、さらに試練というべき出来事が重なって、前作に比べてペンリックの人柄はちょっと翳りを帯びているようです。

作者はやはり、ちょっと影のある人物を書く方が得意なんでしょうか? 前作の明るさや捜査官オズウェル、王認巫師イングリスらペンリックの仲間たちも気に入ってたので、彼らが出てこないのは残念です。 作者としてはもっとこの世界を広げてみたいのでしょうか? アリセイディア将軍や異母妹ニキス、ニキスの母イドレネも面白い人物ですが。 ペンリックの恋愛模様も描かれるのですが、そちらはもう一つな感じでした。 また本作では魔デズデモーナを構成する個々の人物に焦点を当てているのですが、そっちに行くかぁ、という感じ。 ペンリックの直前のルチア学師の話はそのうちあるかなと思っていましたが、もう少しウィールド編を楽しみたかったなと思います。

 

「魔術師ペンリックの使命」  ロイス・マクマスター・ビジョルド 作

               鍛治靖子 訳(創元推理文庫