影の棲む城

L・M・ビジョルドの五神教シリーズ2作目。 前作の3年後、イセーレ国姫の母イスタ国太后が本作の主人公です。

前作で影の呪詛により弟と異母兄である国主が命を落とし、イセーレが国主に、カザリルは宰相になっています。 母である藩太后も亡くなって実家の城で一人になったイスタは、呪詛が祓われ元気になってきたものの、相変らずの干渉や規制に倦み疲れています。

思い立って巡礼の旅に出るイスタ。 お供はカザリルがつけてくれたフェルダとフォイのグラール兄弟率いる姫神の騎士十数騎の他は、急遽侍女にスカウトした宰相府の急使リス(アナリス)と庶子神の神官カボン学師の少人数。 郷司夫人に身をやつし、のんびり気ままな旅のはずが、思いもよらず侵攻していた異教徒ロクナル人のジョコナ公国の軍と遭遇し囚われてしまいます。

ピンチを救ってくれたのが、国境の砦ポリフォルス城を守るアリーズ・ディ・ルテス郡候です。 素晴らしい戦士のように見えるアリーズには、しかし、奇妙な点があり、その居城ポリフォルスで目にしたのは原因不明の病気で眠り続ける異母弟イルヴィン。 それはイスタがかつて不思議な夢の中で見た光景そのままでした。 兄弟とアリーズの若い後妻カティラーラの3人には重大な秘密があり、それは魔術師の一団を率いて侵攻してきたジョコナ公国の陰謀とも関係しているようです。 また、兄弟の父はイスタの夫・前々国主アイアスの宰相で、前作では呪詛にまつわるイスタ達3人の因縁が述べられています。

城はジョコナ大公とその母太后率いる軍に包囲され危機に陥ります。 イスタの夢に現れた庶子神はすべての解決をイスタに委ねようとしているようです。

色々な要素が錯綜していた前作に比べてストーリーのまとまりが良く、さらに読みやすく感じました。 前作でははっきり書かれてなかった五神の性質や役割分担が、始めの方にカボン学師の説教として説明されます。 とりわけ庶子神の説明が詳しいのは、その特異な性質と本作での中心的役割によるのでしょう。 庶子神は母神とその騎士たる大いなる魔の間に生まれたというのは、有夫の貴婦人に忠誠をささげるという、騎士道物語を持つ西洋では受け入れやすい話かもしれません。 日本人としては「南総里見八犬伝」の、伏姫が犬の精に感じて八犬士を生む話を連想しました。

前作では弱々しいイメージだったイスタが、話が進むにつれどんどん強く、ふてぶてしくなっていくようです。 リスやカボン学師など他の登場人物も生き生きしていて楽しい。 イスタは御子神以外の全ての神と関係があるのですが、最終的には庶子神の神官として活動することになりそうです。 ここで登場する庶子神はトリックスターの面目躍如という性格ですが、ちょっとセクハラ上司っぽい。 それを遠慮なく罵りながら堂々と渡り合うイスタとはいい組み合わせになりそうです。

 

「影の棲む城」上・下 ロイス・マクマスター・ビジョルド 作

           鍛治 靖子 訳 (創元推理文庫