トムは真夜中の庭で

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ファンタジーか子どもの本かと考えましたが、非日常のファンタジーではあるけれど、この現実世界が舞台なので、子どもの本に入れました。
現代児童文学の名作です。

夏休みなのにトムは面白くありません。 弟のピーターがはしかにかかり、うつらない様におじさんの家に預けられることになったのです。 ピーターと庭で遊ぶ計画もダメになってしまいました。 滞在先のおじさんの住まいは、元は大きな邸宅だった物を区切ったアパートで、遊ぶ庭もありません。 元の邸宅の名残は、ホールにある大きな古時計だけです。

おじさんとおばさんは親切だけど、すっかり気を腐らせるトム。
ところが真夜中に不思議なことが起こります。

大時計が打つはずのない13時を打ち、様子を見に降りたトムはアパートの裏口の向こうに立派な庭園を発見したのです。
昼間はなく真夜中にだけ現れる、様々な時間と季節の庭園で、トム遊ぶようになります。 そこは昔のこの邸宅の庭のようで、古めかしい服装の住人達もいますが、彼らにはトムの姿は見えません。
やがてトムは、ハティという少女と知り合って一緒に遊ぶようになります。 ハティは両親を亡くしてこの屋敷に引き取られている孤独な空想好きの少女です。 ハティにはトムの姿が見えるのです。

トムが一人で探検する、そしてハティと二人で遊ぶ、庭園の描写がすばらしいです。
あとがきによると、この庭は実際にあった作者の祖父の屋敷と庭園をモデルにして、挿絵も写真を元にほぼ忠実に描かれているそうです。 その精密で生き生きした描写で、この庭園が題名通り、もう一つの主役になっています。

ずっとこの庭で遊んでいたいけれど、家に帰る日はどんどん近づいてくる。 それに、この庭園は、ハティは、一体何なんだろう? 秘密を解き明かせば、もっと庭で遊んでいられるかも知れない。 トムは昼間、辞典などで調べ始めます。 読者もトムと一緒にいろんな知識を得ることが出来ます。

庭園の時間の移り変わりは気まぐれで、行きつ戻りつしながら、ハティはいつの間にかトムを追い越して大人に近づいていきます。
そして急激に起こる思いがけない展開。

やがて全ての秘密が解き明かされ、時を超えた交流がたどり着いた結末に心温まります。
おすすめの1冊です。


「トムは真夜中の庭で」 フィリパ・ピアス作 高杉一郎訳(岩波書店