ダークホルムの闇の君

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アニメ「ハウルの動く城」の原作者として、日本でもよく知られるようになったダイアナ・ウィン・ジョーンズの長編。

ジョーンズの物を読んだ方はおわかりのように、設定がわかりにくく理屈っぽく感じる物もありますが、この作は比較的わかりやすく楽しめるでしょう。 
彼女の作品はパラレルワールド、平行して存在する異次元の世界を前提としたものが多いですが、これも魔術師や龍、エルフ、ドワーフなどが闊歩するおなじみの魔法世界に、この現実世界を思わせる異世界の住人が巡礼という名目で観光にやって来るという話です。

通常のファンタジーと違うのは、冒険に出かける現代人ではなく、やって来られる魔法世界の住人の視点で書かれていること。
魔王の軍団と正義の勢力が死闘を繰り広げる、という異世界人のイメージに合わせるために、普段は平和な魔法世界で出来レースの戦闘やイベントを行う。 巡礼に倒される悪の元締め「闇の君」役は持ち回りでというわけ。
やらせ、八百長といっても実際に戦死者や犠牲者が出るし、国土は荒廃するばかり。 魔法世界の住人は嫌気がさしているのですが、取り仕切っているのは異世界の事業家チェズニー氏。 彼は強力な魔物を取り込み、エルフの王子を人質にとって理不尽な要求を押しつけてくるのです。
困った魔法界の実力者達が、お告げに従って選んだ本年の「闇の君」は、ちょっと変わっていてお人好しの魔術師ダーク。 彼は変わった生き物を創造するのが趣味で、やり手魔術師の妻に娘と息子、5匹のグリフィンやしゃべる馬、空飛ぶ豚、牛、鵞鳥などと農場ダークホルムで暮らしています。 特にグリフィンは自分たち夫婦の細胞を入れて人格を持たせ、子ども扱いで、言葉も話せば家事もこなすという具合。
頼りなさそうなマイホームパパに「闇の君」が務まるのか? 人間とグリフィンの子ども達は協力して乗りきろうとしますが、妻はちょっと様子がおかしい。 恐ろしげな題名と裏腹に魔法界版ホームドラマという趣ですが、もちろん、すんなり事が運ぶはずはなく、ハプニング続き。 巡礼団にも、魔法世界にも、まだまだ裏がありそうです。

小中学生には十分楽しめるけど、大人には少し物足りないかも知れません。 私には、グリフィンの数が多く判別が付きにくいのが、ちょっと難点に思えました。

「ダークホルムの闇の君 上・下」 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作 浅羽莢子訳 (東京創元社