魂萌え

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新聞連載、映画化で話題の小説。

還暦間近のヒロインの夫が定年後急死、愛人の存在が発覚して…、というとありがちな設定ですが、それを現代の問題に絡めて描いたことが話題となった要因でしょう。
問題の愛人が主人公より年上、というのがまず意表を突く所。 その愛人のイメージが、私にはどうも掴みにくかったんですが、映画の配役は三田佳子と聞いて、半分納得し、半分は違うんじゃ?という感じ。もう少し平凡なイメージなんですけどね。

主人公の子ども達の状況や、カプセルホテルという風俗も現代的な感じがします。

でも、なにより主人公とその友人達が、いかにも現代の熟年主婦だなと感じさせます。 作者は彼女らよりやや年下だけれど近い年代なので、説得力ある描き方が出来たのでしょう。 還暦間近といっても、まだまだ元気でお洒落、おとなしく子に従えない、というのも良く解ります。 人生50年の時代じゃないのですから。
しかし、だからこそ、残りまだ2,30年をどう生きていけるのか。 多くの人たちの関心事であり、主人公と自身の将来を重ね合わせて読む人も多いのではないでしょうか。

ストーリーと直接関係ないのですが、私はカプセルホテルの「フロ婆さん」こと宮里の飼い犬ペスの運命が可哀想でなりませんでした。 犬1匹くらい周囲が何とかしてやれないのか!と、義憤に駆られましたが、このあたりが、主人公や彼女に自分を重ねる読者の不安の要因じゃないかとも思います。 何かあっても周囲が手をさしのべてくれる世の中なら、不安を感じることもないですから。 それを計算に入れてこのエピソードを挿入したのなら、この作者なかなかですね。

ヒロインの年代は団塊の世代。 全共闘世代でもあります。 
この世代がそろそろ定年を迎えることが社会的な関心事であり、この小説がもてはやされる背景にあるのでしょう。 この世代、若い頃には改革、革命を叫びながら、社会の中堅になると企業戦士として、管理職として、世の中を窮屈な世知辛いものにしたというイメージがあります。
「魂萌え」というのは、こころ、魂が新たに覚醒し燃えさかるという意味らしいですけど、企業の呪縛から解き放たれて、広い視野から世直しに燃えて欲しいものです。

「魂萌え」桐野夏生作 毎日新聞社