ダルタニャン物語 ~ ご存じ三銃士の世界

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あ~、読んだ読んだぁ~っと、伸びをしたい気分。
ダルタニャン物語、全11冊読了しました。

ダルタニャン、子どもの頃大好きでした。 ご存じ三銃士との友情と冒険の物語。 まだ続きがあると知って、いつかは読みたいと思っていたものです。

おなじみの第一部に続く第二部は20年後、ルイ13世、リシュリュー枢機卿亡き後のフロンドの乱やイギリス清教徒革命を中心とした事件に、それぞれの立場で関わる銃士達。 第三部はさらに10年後、イギリスの王政復古、ルイ14世専制を確立するフランス宮廷の人間模様が、アトスの息子ラウル・ド・ブラジュロンヌ子爵の悲恋や銃士達の動静を絡めて描かれます。

子どもの頃読んだ第一部は比較的原作に忠実なものでしたが、やはり子ども向きで、具合の悪そうなところは省略されていたようです。
だから、ダルタニャンは純情一途な正義漢と思い込んでいたのですが、今読んでみると結構要領が良くて計算高い、人が悪くて冷酷な面すらあります。  
ミレディが何故、ああも執拗にダルタニャンをつけ狙うのか。 大きな手柄をフイにされた腹いせだろうけど、それにしてもやり方がえげつない。 そういう性悪女なんだろうと思っていましたが、原作を読んでみるとダルタニャンにも責任はある。 よい子にはお知らせできないような事してますね、この人。 そりゃミレディも怒るわ、と、ちょっぴり同情しちゃいました。

同じ事は第二部に出てくるミレディの遺児にも言えます。 幼い頃母親を殺されて、復讐鬼となって銃士達をつけ狙うというのも、わからないでもないなぁ。 毒蛇の子は毒蛇という描き方されていますが。

第二部ではダルタニャン以外は退役して立場を異にし、敵味方に分かれてしまいます。 それでも友情第1を確認し、それぞれの立場で活躍するのですが。
ダルタニャンの次にはアトスが好きだったんですが、子どもの頃のイメージはおじさんという感じで、ちょっと近寄りがたかったんです。 だけど今なら…。 息子がいることは知っていました。 さぞ、心の傷を癒すような素敵なロマンスが…と期待していたら、おいおい、なんなんだこの成り行きは? もう、懲りない人だねぇ! アトスにも、ちょっとがっかり。
アラミスも結構性格悪かったんだ、美形なのに。 ポルトスはというと…バカだねぇ(「寅さん」のおばさんの口調で)。
もちろん、だからといって嫌いになるわけではなく、全員いい奴なんですけど。 友達なら良いけど夫や恋人にはなぁ、って感じ。

第三部が一番長いのですが、銃士達の活躍より、宮廷の駆け引きや恋愛模様が占める割合が多くなります。 それはそれで面白く、歴史の勉強にもなります。 ただ、私はあまり知識がないので、何処までが史実で何処からが作り事かよく分かりません。

第三部に有名な鉄仮面のエピソードがあります。
映画「仮面の男」を始め、様々なバリエーションでしか知らないこの話、デュマの原作ではどうなんだろう?という興味もありました。

この先、内容に触れますので、自分で読んでみたい方にはネタバレ警報発令です(って、実は文庫本巻頭の人物紹介で殆どネタバレしちゃってるんです。 これ何とかして欲しいな)。



このエピソード、読んでみると、え、これだけ?って感じなんです。

実行に至るまでの下準備には随分時間をかけているのに、いざ実行するとあっけなく潰えてしまう。
それにしてもアラミスがこの陰謀の黒幕、いや、殆ど彼一人の陰謀だったなんて…。 実行の際には、何も知らないポルトスを引き込んで片棒を担がせるのですが。
ルイ14世の双子の王子が人知れず幽閉されているのを、すり替えて王位につけようというもの。
ところが、アラミスがそのために働いていた財務卿フーケが、打ち明けられるや即ルイ14世を救出して、陰謀はぶち壊しになります。

気の毒なのは双子のフィリップ王子(もう一人の王弟オルレアン公もフィリップなので話がややこしい)。 終生、鉄仮面を付けて離れ島に幽閉されることになってしまいます。 ここまでは仮面を付けていたわけでなく、「鉄仮面」の巻に鉄仮面は登場してないんですね。 このエピソードはここで終わってしまいます。 

ちょっとぉ、王子様が可哀想すぎるじゃない、誰かなんとかしてやってよ!
こら、アラミス、自分だけ(ポルトスも連れてだけど)逃げるな! 
ダルタニャンもルイの無慈悲な仕打ちに怒りながらも、命令は忠実に実行するし。
アトスと息子のラウルが島を訪れて、王子のメッセージを刻んだ銀の皿を手に入れた時が最後のチャンスなのですが、映画のような展開になるかと思いきや、この二人も何にもしないんです。 ラウルは恋人ルイズ・ド・ラヴァリエール嬢をルイに奪われた傷心のみ。 アトスはそんなラウルが絶望から死地を求めて戦場に赴くことでこれまた傷心。
こら、アトス! 親バカで呆けてる場合じゃないでしょ!! 外国の王様のために命がけで頑張ったくせに、自分の国の気の毒な王子様のために一肌脱がんかい! ルイを恨んでるんだろ? せめてどこか自由で安全なところへ逃がしてあげなさいよ!
という、私の叫びもむなしく、本当に何にも起こらないのです。

おそらく、こんなフラストレーションから、映画「仮面の男」を始めとする、様々なバリエーションが生まれてきたのでしょうね。

それにしても、第三部の中心人物であるラウル・ド・ブラジュロンヌ子爵、純情で勇敢で誠実なんだけど、どうも線が細い。 ダルタニャンの爪の垢でも煎じて飲んで、その何分の1かのしたたかさでも有ればねえ。 こんな風に育てたアトスの責任もあるのでは?
アトスは先を見越してでもいたかのようにラヴァリエール嬢のことを良く思わず、アトスに忠実で親孝行なラウルも何故か彼女のことだけは譲ろうとしません。
ラヴァリエール嬢の心変わりを知ったラウルが、これからの生き方を模索する独白がありますが、それはなんだか若き日のアトスそのままという感じ。 結局アトスは自分の価値観、生き方をそのままラウルに押しつけて自分のコピーとしての生き方を無意識に強要し、ラウルも表面はそれを受け入れながら、譲れない唯一つの自分のアイデンティティーであったのが、ラヴァリエール嬢との恋愛だったのではないでしょうか。 だから彼女を失った時、アトスのコピーとして生きるか、ラウルとして死ぬかの2者択一を自身に迫って後者を選んだ、というのは作者も考えてないだろうし、深読みしすぎでしょうか?

ラウルを慕ってパリに出て来たはずなのに、宮廷の華やかさに目が眩むラヴァリエール嬢も軽薄と言えるけど、彼女だけが悪いのかとも思います。 ラウルの愛情はどこか一方的で押しつけがましい所がある。 アトスに良く思われていないことは彼女も感じていて、居心地悪い所もあったのではないでしょうか。
ラウルとアトスの死後、ダルタニャンがラヴァリエール嬢に「あなたの責任だ」と責める場面があるけど、「お前が言うな」と思う。 ほんとにそう思うなら、彼女が宮廷の嫉妬といじめに耐えかねて修道院に逃れた時、彼女の希望通りにそっとしておいてやれば良かったのに。 姑息なやり方でルイに教えたりして。 そのまま修道院にいれば、ラウルにも連れ戻すチャンスがあったのに。
ま、史実というものがあるのですが(ラヴァリエール嬢は実在の人物)。

アトスはラウルの出征後にわかに老いて、息子の後を追うように世を去ります。
それより前に、ポルトスが4人の中で一番早く死ぬのですが、この最後にいたる場面で彼を見直しました。
前にも書いたように、アラミスがルイ14世と双子の王子をすり替える時に、何も知らないポルトスを騙すようにして手伝わせる。 陰謀が露見して逃亡する時も、何も説明しないままポルトスを連れて行きます。 やがてダルタニャンに追いつかれて、アラミスは全てを打ち明け、何も知らないまま手伝っていたポルトスに帰順を勧めます。ダルタニャンも王への取りなしを申し出るのですが、ポルトスはアラミスを許して行動を共にすることを選びます。そして、島の洞窟で友情に殉じて壮絶な最期を遂げるのです。
力自慢なだけで、大食漢で見栄っ張りで、単純なお人好しとばかり思っていたポルトスですが、全てを許し受け入れる度量と善良さに打たれました。 愚直な生き方が崇高さに通じるという点で、状況は全く違いますが、「水滸伝」の花和尚魯智深の最期を想い起こします。

窮地を逃れたアラミスは意外な形で復活を果たします。 彼が最もしたたかで、ダルタニャンが死んだ時も存命だったはずです。

ダルタニャンの最期の言葉の意味が、私にはもう一つよく解りません。
「アトス、ポルトス、また会おう。 アラミス、永遠にさようなら。」
というものですが、高潔なアトスや善良なポルトスは天国に行けるが、権謀術数に生きたアラミスは行けない、という意味でしょうか? それを言うならダルタニャン自身だって、彼ほどでないにしても悪いことはしているはずですが。 それにアラミスなら、天国の門番にだって袖の下を使いそうです。
細かいことは抜きにして、あの世ではまた4人揃って、飲みかつ笑っていて欲しいものですが。

ともあれ、19歳でパリに出て来てから、元帥の栄誉を手に名誉の戦死を遂げるまでの、ダルタニャンの生涯を見届けて感無量です。

長いものなので感想もまた長くなってしまいました。 読んでくださった方、ありがとうございます。 
全編を通して読んでみると、善悪の区別が明快で銃士達の結束に揺るぎがない第一部がもてはやされているのが、納得できる気がします。


「ダルタニャン物語 第一部2冊、第二部3冊、第三部6冊」 A・デュマ作 鈴木力衛訳(講談社文庫)